医療機器業界の転職ノウハウ

5 医療機器営業職の転職について

5-1 医療機器営業職の転職作戦を考える
~ 採用側の基準・計画 年齢経験に見合った実力 年齢バンドに対する期待値 ~

医療機器の求人を職種で分けると営業職が最も多い。新製品導入による増員・欠員補充でなど各社求人を公開し、ほぼ通年で募集をかけています。これに対して求職者も多いのですが、そこから先は仕事内容・経験内容・勤務地など諸条件に適性があれば、応募は可能。条件など適性あるのですが、採用に至るまでが容易でない場合もあります。そこで転職成功・失敗を振り分けてその理由と背景について、数回に分けて分析しようと思います。後半には個別例を紹介して、成功の秘訣を探ります。

その1: 人材採用の目的の一つが組織の強化・活性化。業務の円滑な消化・運営も当然なのですがこの組織の強化は見逃せません

その2: 目先の解決よりも中長期的な会社運営に重点を置いている

その3: 年齢センシティブな姿勢、経験・スキルと年齢が並行して進歩している人材に評価

1 組織活性化とは特定の年齢層に偏っている組織に別の年齢層を配属して、組織(日本人の組織とはピラミッド型の命令系統を創造すること)を強化する。中途採用をその有効な手段として利用する。どの会社も若手を強化したいー

2 人材採用では求める資格・経験などの基準が重要。応募要件に近いが基準点に達しない場合、中長期の観点から「見送る」の答え。その人材でも当座の仕事はこなせるはずですが採用しない。今あるビジネスチャンスを見逃しても、見送る。

3 人材が組織の中でうまく立ち回れるかを気にする。年齢もさることながら、性格・技能なども相関するものとして見ます。組織内では年齢に応じた仕事の分担があるので、年齢(経験)に相応の技能が求められる。年の割に技能がないのはNG、年齢以上の技能の持ち主も敬遠されることがある。
企業の中途採用は「目先のビジネスチャンスよりも中期の安定発展を重視」のようです。結果として人材採用のハードルは高くなる。

たとえばこんな例も:

営業職の募集、転職相談を申 し込んできた方(Aさん)は求人の経歴・技能にかなり近い。Aさんもその企業をご存じで応募に前向き、紹介して面接に進んで、2回目の役員面接でもかなりよい感触で終わりました。採用内定かと期待したのですが結果は「見送り」。確かに希望する年齢は33歳(くらいまで)とありましたが、34歳は十分に検討圏内 のはず、理由がわからなかったのですが、後日人事様からこんなコメントが:

「社内でも採用か見送りかでもめました。見送りにいたった理由は歳に対しての経験の短さ、それによって(営業の)実力も31歳くらいと踏んだためです」
そういえばAさんは高校卒業後4年ほどブランクがあった、浪人中に体をこわして思わず4浪と長引いた。社会人のスタートも遅れたのですが、社会人になってからは営業で活躍していた。「それくらいの誤差で見送りは厳しい」と思いたいのですが、ここぞ企業が人材採用にかける真剣さと感じいりま す。
「34歳なりの経験の長さがあって2-3年後にはグループリーダーをも狙えるというのであれば組織の強化につながる、Aさんの場合にはまだそこまでいかない。営業として見れば即戦力なのですがー」と人事様は追加説明。

このAさんの例は目先の要求(即戦力の人材)以上に、その方が組織の中でどう動けるかひいては組織強化につながるかを重視した結論でした。

Aさんの例でもう一つのメッセージは「年齢と経験・技能のバランス」が重要という事でした。
経験と技能の平行した発展、年齢に見合った即戦力が内定獲得の秘訣です。今回の例は社会人スタートが遅れた方で年齢に見合った熟達度がない。少し極端なケースでした。ではどのようにして自身の経験・技能をアピールするのですか?という疑問が寄せられました、以下に:

企業は経験者を年齢帯の中で判断している、これは営業職に限らず開発・マーケティングなど他の職種でも同様です。ではその年齢帯とは営業職では顕著なので以下に:

1 27-8歳、社会人の経験を5年と見ています
2 33歳まで、10年以上の社会人経験
3 37-8歳 仕事を一人でこなせチームリーダー的な能力もある

(上記1-3はあくまで一般的、特定企業の基準ではありません)

1.の年齢層、経験年数が少ない人材、第2新卒も含めます、そうした人材の募集もあるのですが、その場合は要求内容が異なるので最後に解説します。3.の年齢層を超える年齢の転職もあります、弊サイトでもお世話の実績があります。これもケースごとに要求がことなるので一般化できないので、別枠と考えます。

2.の年齢層29歳から33歳(位)までの方。転職相談で最も多いのがこの世代、話を聞く中で転職の理由として「自身をより向上させたい」「このまま現職を続けても、将来(経歴的に)安定できるかわからない」。キャリアアップの希望を聞きます。別の理由たとえば「リストラで早期退職に応募した」「会社が経営不振なのでよりしっかりした企業に」との声も聞きます。しかしその場合でも背景には「リストラをきっかけによりキャリアアップ」の狙いもうかがえます。
さらに「この年齢であれば転職は苦労しない」「業種職種も変えて心機一転を図りたい」という自信も伺えます。転職の決意前に下調べ、いろいろと調査したようです。

5-2 医療機器営業職の転職作戦を考える ~31歳の転職経験 37歳の転職経験~

獣医向けの薬品のディーラー、営業歴6年・31歳のKさん。
医療機器への転職希望、理由は畜産業の将来はバラ色でない、WTO実施などグローバリゼーションが進めば日本の牧畜は難しくなる。今のうちにーでした。

Kさんはメディカルキャリアへ登録前に大手2社に自己応募して、面接でNG, 自信をなくしていた。面談して小一時間ほど話し込んで、Kさんの営業スタイルに注目しました。ディーラーとはいえ、製品を担当して拡販と顧客開拓してい た。そのディーラーで若手では売上#1。さらに前の2社のNG内容は「業界経験が無いので」だった事を確認した。

当方のアドバイスは、職務経歴書の全面書きかえ。現職での仕事内容、特に新製品に特化して、拡販のキャンペーンを張り、担当地域での拡販効果をコミットして、成果を出す。まさに営業の常道ですね。ここを具体的に経時的に詳細記述するーでした。
結果は「前の2社以上のビッグネーム(=最難関のS社)に決定してよかった」でした。

Kさんの例でも、経験・技能の平行進歩がこの時の秘訣だと感じました。Kさんの年齢(経験年数)にふさわしい、また企業が願う技能、この場合には営業の常道である「製品知識・拡販・予算達成」の一連を実行していたわけです。

もしKさんが年齢的に3-4歳上としたらどうでしょうか。35歳、医療分野ではないが営業的に経験長く実績も積んでいるーという紹介になるかと思 いますが、この条件では転職成功は難しいと思います。他業界からの転職が可能なのは20歳代、業種が近ければ30歳代の前半は検討するが、それ以上の年齢の場合には難しい。これは医療機器に限りませんが。

では30歳半ば以上の方を採用するには、本人の資質もさることながら、柔軟性(適応力)、想定される配属先の人員構成やパーソナリティまで見てしまう。転職者個人の資質・技能を超えたところでの決定があり、それだけ難しいものにしている。採用する側(企業)の姿勢を「保守的すぎる」と恨む声もあるが、日本 人特有の文化=年齢が高いほど能力もある=ともあいまって、厳しのだろう。

では逆風にも負けずの30歳代後半の転職作戦、必勝のパターンは?

補充・欠員での募集、組織構成からしてまた即戦力の期待から30歳代後半40歳でも応募可能。求人案件数は少ないですが必ず有ります。この年齢層の今ひとつ戦術としては、

1 キャリアの継続性があること
2 過去のキャリア資産+将来性が見えること
3 キーワードは「リーダーシップ」

例として:
37歳でデバイスメーカー(外資系)に転職成功したSさん。
23歳で化学企業(国内系)に就職、2年間は総務勤務、後に工業用試薬の営業を3年。転職してメディカルに。スタートが派遣MRとして4年、直近がカテーテルなどのデバイス営業で5年。

新卒就職して最初の5年間はメディカルとは関連がなく、営業経験も分野が異なるので評価は高くないが、この5年間で社会人としての協調性・コミュニケーションを学んだ期間として認められた。また会社も上場企業だったので評価があった。
のちの9年間では営業(関連)職として経歴がつながっている。特に直近では業種と職種で近似した仕事内容だったので、転職先の仕事も即戦力が可能と判断された。年齢のハンディを乗り越えられた理由が経験の持続性(過去と転職後も)。もしMR・医療機器デバイス営業の順が逆であれば、デバイス営業が途切れるので難しかった。

国内系中堅メーカーの営業企画職に勤務のTさん
マーケティング経験8年の37歳、前職はメディカルではなく機械メーカーの営業。転職したい理由は 「製品の品質問題が多発、後ろ向きの仕事が多すぎる。品質管理を徹底してもらいたいが会社にはその実力がない」。品質が安定する頃には陳腐化する、新製品を出すと品質が安定しない=中堅企業に限らずメーカー多くの悩みですね。

仕事内容を聞くと「商品の企画=スペック・構成・臨床での使い方など=をまとめ、2-3の有力カスタマーと最終性能をつめる」。その過程は「プラスチック のデバイスでは、素材の選択、ちょっとした配合の差で先端のしなりが違う。使うドクターによっての好みが分かれるので最大公約数的な性能をめざす」さら に、

「性能を安定させ、販売開始になって、営業と同行して売り込み」と幅広くしっかりした経験。業種の近いD社(国内系)でマーケティング職を募集しており、応募を薦めた。T さんへのアドバイスは営業支援の経験、ここは本人の希望とずれがありました。希望はより上流、すなわち開発・企画・調査といった仕事に関心が。しかし上流ではカスタマーからは離れる事になりそうです。T さんは下流の営業支援・新規開拓にも実績があり、この転職でどちらか力点を定めて、より熟達する時期、本人も自覚していてその選択は上流。

私から見れば経歴で光るのは下流での実績。たとえば著名なドクターの手技に立ち会い、試作品を使ってもらう、その時の進行状況の中で、その製品がよどみな く、手技の流れを妨げず患部に入る。あるいは形状と軟硬さの不具合で流れについて行けなかったーなどハイレベルな立ち会いをしていた。この経験は大事で す。

=営業支援を「下流」というのがおかしいので、本流が正しい。上流にある細かな支流を集めて大河になるのが本流です=と本流説を理解してもらって応募、決定までには時間がかかりませんでした。このケースを上記の3原則に当てはめると:

1. のキャリアの継続性。これは職種では100%適合、業種では50%ほど。というのは前職と現職では対象の部が(たとえば整形と外科のように)異なる。
2. 資産としてのキャリアは製品を臨床使用してもらい、納得して購入にこぎ着ける。この経験は資産ですね。転職先からも評価が高かったので、将来に渡って継続できる。
3. リーダーシップ、これは一人で全国の営業員を指導・激励しつつ拡販していたの例でも明確でした。T さんの場合はいくつか方向が見えているが、過去の経験でベストを探し当て、応募したのが1,2,3の原則に乗っかり成功でした。

5-3 医療機器営業職の転職作戦を考える ~27歳の転職経験~

順序は逆ですが27-8歳・社会人の経験を5年前後の方、の転職を考えます。より若い「第二新卒」も含め転職の際の注意点もあわせ考えます。中途採用は即戦力が大原則、若い・経験年数の不足だと言っても、転職したら一定の研修の後は現場に配属され、先輩諸氏にまじって組織の一員での仕事ぶりが期待されま す。ここで若手の即戦力とは?

営業で言えば比較的やさしいというか営業員を困らせるシチュエーションが少ない仕事を担当する可能性が高い(会社によって異なるので、あくまでも一般論として)。たとえばすでに確立している(ロイヤリティの高い)顧客を担当する。

ここで必要なスキルとは何だろうか。顧客とのコミュニケーション、すなわち電話の取り方・アポの取り方、営業としての話し方・受け答え、質問があったときに返答、難しい質問への対応などすなわち営業の基本です。ロイヤルな顧客とは製品・ブランドに信頼を置き、引き続いて発注してくれる顧客です。

前職で短い年数ながらどのように仕事をこなしてきたかーが若手の面接で確認する事項となります。営業として活動してきたか、顧客との関係を維持できるか、うまくいかないときの解決策はあるのかなどが吟味されます。応募者は営業の経験は必要です。業種はメディカルでなくてもよい、話し方・対応の仕方などでの営業のスタイルの「基本」を持ちコミュニケーション力があれば可能性は高い。

不動産の営業経験4年のTさん
学生時代の友人が医療機器の営業に進んで仕事がおもしろそうなので転職したいと登録しました。面談の時間がとれて話を持ちました。T さん、営業成績ではその地区では常に1-2位、全国でも上位5名に入るとか。ただし住宅の営業という一般コンシューマ向けのスタイルと病院・ドクターへの営業に差がありそう、この差を感じさせないようにするのが面接指導となりました。

何社目かに応募し、すぐに面接に入ったY社のコメントにその理由が隠されていたようです。2次面接まで突破、最後の人事担当役員からは「当社が期待する人物像ではない・営業の進め方も違うので」というNGのコメント。思わず耳を疑ったのですが、その答えでこれまで何社か続いた見送り・NGの本当の理由が隠されているようだーと頭を切り換えました。

Tさんから過去の面接での質問と対応を聞きました。答えは「不動産営業の組み立て方の質問。受注までのプロセスを確認された。ほとんどすべての面接で」とのこと。これに対するTさんの答えかたは「飛び込み・あるいは展示会場の来客で、脈がありそうなところではともかく通う」が進め方。話しぶりを聞くと、がむしゃらに通うが成功のようです。このスタイルが医療機器の営業とは離れていると判断されているようでした。技術力と製品差別化で売り込む(これがすべてのケースではないでしょうが)医療機器とは異なります。

言うなればTさんの場合は3原則の「キャリア資産+将来性」での食い違いが出てしまう、つまり不動産の営業スタイルしか持たないとしたら・医療機器営業での将来はないと危惧していたのかも知れない。そこで急遽、面接での対応の変更をアドバイスして、その後3社目にようやく内定。Tさんの例では採用する側としての企業人事様各位の、慎重な面接ぶりを改めて思い知らされました。

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